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脱出 〜バグダッド地下捕虜収容所より脱走せよ〜



  脱出 〜バグダッド地下捕虜収容所より脱走せよ〜
  「序章」

  2007年12月10日 午後4時35分 イラク国首都バグダッド
  ダダダダダ・・・・ダダダダ・・・・ダダダン!
   イラクの中心街、バグダッドで突如凄まじい銃声が響いた。平然としていた駐留記者たちも
  一揆に緊張感に包まれ、ある人は悲鳴を上げ逃げ惑い、ある人はその場で蹲っている。だが、
  町の人々はそんな彼らの挙動を横目に見つつも、普段と変わらない日常を送っていた。
   銃撃戦の場所となったのは、今はもう、もぬけの殻となっているアパートが立ち並ぶ一角、
  集合団地だ。そこにいるとすれば、住所を持たない浮浪者や難民であり、そこで戦闘をしている
  異教徒の者たちにすれば、そのあたりの道端で焦げついている自動車の残骸のような存在
  だった。
   軽装甲車三台を盾にして三十二人の米軍がコルトM4A1カービン、コルトM16A2などの自動
  小銃を主力として抗米ゲリラに向け銃撃を続けている。一方の抗米ゲリラは廃アパートの近くに
  乗り捨てられている大型のバスや廃戦車などを盾に四十五人のが旧ソビエト製のライフルを
  片手に応戦している。彼らの武器は、アブトマット・カラシニコフ47など今でも数多くのゲリラに
  使われている一種の旗印のようなものだ。
   勝敗はすぐについた。
  数が多かったのも勝敗を分けた大きな理由ともいえるが米軍の殆どが経験の薄い新米の
  若兵だったことも大きな理由だった。その結果、抗米ゲリラには七人の死者しか出さなかったが、
  米軍のほうは計十二名もの兵が犠牲となった。残り8名はなんとか戦線を離脱し、残りの二人は
  抗米ゲリラの捕虜となってしまった。
   その二人の内の一人、ティモシー・ジョーンズ少尉は陸軍の中ではベテラン中のベテランと
  いっていいほど腕が立ち、今回の銃撃戦でも指揮をとった部隊の中心的な人物だ。
   そして捕虜にされたもう一人、ケビン・メサマー二等兵は米軍に入ったばかりの新米で、
  彼にとって今回が初めての戦場だった。

  「・・・・・・・ん?」
   ケビンが硬いベッドの上で目覚めた。目を擦りながら周りを見渡す。だが全く見覚えのない六畳
  ほどの薄暗い部屋だ。ケビンは起きてから三十秒ほど記憶が飛んでいたが、時間が経つにつれて
  徐々に記憶が戻ってくる。
  「・・・そうだ。戦いに負けて捕虜にされたんだったな。」
   細々とした声で語るように言う。自分が置かれている状況を確認し改めて絶望感に襲われる。
  そういえば身体の節々が痛い。捕虜として目隠しをされて、その後・・・
   そうだ。あの後、暗い部屋に連れ込まれ、尋常じゃないほどの暴力を受けたんだ。
  それで気を失ったんだったな。
   いろいろと記憶を取り戻しているうちにあることに気が付く。
  「ん?・・・ティモシー少尉は・・・」
   目隠しをされる寸前まで一緒にいたティモシー少尉がいない。部屋を見渡すが自分が今座って
  いるベッドと、簡易トイレしかない。上から見ると三方がコンクリートの塀で一方が太い鉄の柵に
  囲まれている。その柵から真正面には黒く濁ったコンクリートの塀が見えるだけで、ほかには何も
  ない。

   ケビンはどうすることもできずに、今はゲリラによる暴力で負った傷を癒すため、ベッドに
  横たわっていた。

  「・・・・・ケビン、聞こえるか?・・・」
   ケビンが横たわって20分ほど経とうか。どこからか自分を呼ぶ声が聞こえる。ケビンは
  すかさずに外に向かって言った。
  「ティモシー少尉ですか?」
   するとすぐに返事が返ってきた。
  「うむ。そうだ。大丈夫だったか?」
   ティモシー少尉が生きていることを知り、ケインは少しだけ安心した。
  「はい。なんとか大丈夫でしたが、ここはどこですか?」
  「俺にもわからん。多分バグダッド近くのどこかの独房だろうな。」
  「そうですか。これからどうなるんですか?」
   ティモシー少尉と状況を確認していると、いきなり鉄柵の外から
  「黙れ!」
   と誰かが叫んだ。それは英語ではなくイラク語だった。ティモシーとケインは突然の大声で
  吃驚し黙りこんだ。
   話し声を聞いた監視兵が激怒したのだろう。
  その声が響いた後はまたシンとした静寂が包んだ・・・

   あれからどれだけの時間が経っただろう。ケイン・メサマーは天上を見ながら、考えた。シンと
  静寂に包まれた収容所の中でいろいろと考え事をしているうちに寝てしまっていた。

  2007年12月11日 午前11時00分 独房内
  ガンガンガンッ「おいっ、起きろ!飯だぞ。」
   ティモシー・ジョーンズとケインは鉄柵を固い棒で殴ったような音で起こされた。迷彩服を着て
  AK47を構えているイラク兵が鉄柵の隙間から小さい小皿とコップを差し出した。ティモシーも
  ケインも昨日の昼から何も口にしていないので、腹はかなり減っていた。小皿の上には黒い米で
  作られた握り飯二つがおいてあるだけで、おかずは何もない。その握り飯の上では夥しい数の蝿
  が這い回っている。コップの方にも黒く濁った、川の水のようなものが入っている。匂いを嗅いで
  みると、吐き気を催しそうな悪臭を放っている。ティモシーとケインは躊躇しながらも食べなければ
  飢え死にしてしまうので顔を歪めながらも口に押し込んだ。このような食事がいつまで続くかと
  思えば死んだほうがまだましかな、とケインは心の底で思った。

  2007年12月11日 午後1時10分 米陸軍軍令部第一作戦会議室
  「昨日未明、イラク首都バグダッドで起こった銃撃戦で米軍二人、ティモシー・ジョーンズ少尉と
  ケイン・メサマー二等兵が捕虜となっていたことが明らかとなりました。いずれも二人の位置は
  不明で・・・」プチッ
   テレビの電源が落ちた。電源を切ったのは年を食った白い鬚を生やした男だった。名前は
  ニフメイ・ソコロフ。陸軍では名の知れた男だ。彼は四十五歳という年で未だ現役だった。彼が作戦
  を指揮して成功した任務の数は軽く三十は超える。彼を囲むようにして椅子が二十個ほどおいて
  いる第一作戦会議室の中で彼が口を開いた。
  「さてこの捕虜とされた二人をどうする?」
   彼はホワイトボードに張られている二人の写真を指し棒で挿しながら呼びかけるように話す。
  「救出するにしても、この二人の位置はまだ把握できていない。まずはこの二人の位置が確定して
  からではないと動きが取れん。」
   彼の質問に答えるようにして、カウル・オベラが言った。彼もニフメイの横に並ぶほどの功績を
  上げている男だ。
  「では位置が確認できたときを想定する。皆話し合え。」
   会議室にいた人たちが近くの人とぼそぼそと話し合う。五分ほどだったときにニフメイが言った。
  「ではカウル。自分の考えを述べよ。」
  「うむ。では救出しに行くとしよう。だが二人がいるのは捕虜収容所だろう?少なく見積もっても
  収容所には五十人以上いるだろう。そこに入っていって勝算を出すには七十人以上いるぞ。たった
  二人のために何人もの人命を犠牲にして助けに行くことになる。」
  「結局、助けには行かないほうがいいということか。」
  「そうだ。」
  「ただ見殺しにするだけでは今後の入軍希望者にかなりの影響がでる。」
  周りが反対するように言う。

  3時間11分後・・・

  「これにて第一回会議を終了する。」
  敬礼をしたあと会議室にいた十五人弱の人が一斉に出て行った。

   緊急の連絡が入った。





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